私の名前はサラン。黒い毛の犬である。
毎日のんびり暖かい家の中で昼寝をしながら過ごしている。
近くの家にチーコという白い猫がいる。自由自在に動き回り、朝出かけていき夕方に帰ってくると白い毛は灰色に薄汚れている。
毎日うちの庭の前を通って出ていくのだ。
「チーコ昨日はどこに行ってたの?」
「行きたくもないけど、うちのご主人様は毎日外へ行けと追い出すのよ。
家の中を汚されるのが嫌なんだって。なんで私を飼ったのよ。
でも食べ物にも困らないし自由で最高よ。サランはいつも退屈そうね。」
「別に退屈なんかしてない。
一日二回お散歩に連れて行ってもらってるからね。
いつも一緒にいてくれる優しいご主人様だから。」
「ふーん。じゃあね。」
チーコは外へ出ると、おじいさんに出会った。
そのおじいさんは腰が曲がって、足も曲がっている。とても歩きにくそうである。
身なりは立派な背広を着ているが、大きく腰が曲がっている。。
片手には杖、片手にはキャリーバックを持っている。というより、両方を杖代わりに使っている。
ちょっと見ていたがあまりに歩くのが遅すぎるため、柿の木に登って休むことにした。ここは日が当たり昼寝にはもってこいなのだ。
うとうとしてふと気が付くと、さっきのおじいさんが道路わきを歩いているのが見えた。
細い歩道からよたよた倒れて道路に出そうである。
これまであの立派な背広を着て会社に通っていたのだろう。
これまでの様に会社に通うつもりのようだ。
あのおじいさんについて行ってみよう。
おじいさんは何度も途中の道路わきのブロックに座ったりしつつ、大きなお屋敷の中に入っていった。
チーコも入ってくと素晴らしい薔薇が咲き誇る大きな庭であった。
「旦那様もうおやめくださいませ。どこにいかれたのかとずっと心配しておりました。」
中からお手伝いさんらしき人が駆け寄ってきた。
「そんな恰好を世間の人に見られてしまいます。」
おじいさんは悲しそうな顔をした。
「世間に見られてなにがいけないのだ。」
「だって世間の人に噂されます。あの人ももう終わりだなって。」
「じゃあ噂されないように家の中にいたら、本当に私の人生は終わりだ。私はこうやって生きている。生きているのにそれでは死んだも同然だろう。私は死ぬまでこの姿勢は貫き通す。」
この広いバラ達も風に吹かれてささやいていた。
「私たちのご主人は立派な人ですよ。」
チーコは庭のバッタを一匹食べて、いつもの家に帰っていったのである。
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